つらい歯ぎしり・食いしばりでお悩みの方へ。歯科医院で行う「ボツリヌストキシン治療」という選択肢
朝、目覚めたときに顎が疲れていたり、日中も無意識に歯を食いしばっていたりしませんか?
歯ぎしりや食いしばりは、単なる「癖」として見過ごされがちですが、実は頭痛や肩こり、歯のすり減りや詰め物の破損など、様々な不調を引き起こす厄介な問題です。従来の治療法であるマウスピース(ナイトガード)は、歯を摩耗から守る上で非常に重要ですが、歯ぎしりを引き起こす筋肉の活動を抑える効果については、有効性に関する見解が研究によっても分かれています。
- マウスピースを使っても、朝の顎のだるさが取れない
- もっと根本的な解決策はないだろうか?
そうお悩みの方へ、新しい選択肢として歯科医院で行う「ボトックス治療」について、専門家としての知見に基づき、詳しく解説します。
歯ぎしり・食いしばりの根本原因「咬筋(こうきん)」の過緊張とは
歯ぎしりや食いしばりを引き起こす主な原因は、頬の外側にある「咬筋」という、ものを噛むための強力な筋肉の過剰な緊張です。
通常、成人でものを噛む力は自身の体重と同程度とされていますが、歯ぎしりや食いしばりの癖がある方では、睡眠中など無意識のうちに80kgf程度の強大な力で歯をこすり合わせたり、食いしばったりする例が報告されています。
この強大な力は、ご自身の歯に深刻なダメージを与えます。歯がすり減って短くなったり、ひび割れ(マイクロクラック)や欠け、時には歯が割れてしまう(歯根破折)こともあり、抜歯に至る大きな原因の一つです。
歯科で行う「ボトックス治療」の仕組みと効果
仕組み
ボトックス治療で用いるのは、「ボツリヌストキシン」という天然由来のたんぱく質を成分とした薬剤です。これを注入すると、その部位の筋肉に限定的に作用し、過剰な働きを和らげます。この効果の持続期間は通常3〜4ヶ月程度が目安です。
期待できる効果
- 歯ぎしり・食いしばりの改善
- 顎の疲労感、だるさ、痛みの緩和
- 歯のすり減り、ひび割れ、破折の予防
- 咬筋の肥大(エラの張り)の改善
効果には個人差がありますが、通常、施術後数日から数週間で実感され、その効果は3〜4ヶ月ほど持続します。 効果が薄れてきた際に再度注入を行うことで、同様の効果が期待できます。反復治療によって効果の持続期間が延びる可能性も報告されていますが、長期的な安全性も考慮し、医師が適切な用法・用量を慎重に判断する必要があります。
当院のボトックス治療について
当院で取り扱いのある薬剤は以下の2種類です。
ボトックスビスタ®アメリカ製のボツリヌス治療製剤
日本の厚生労働省で、国内で唯一製造販売承認を取得している※A型ボツリヌストキシン製剤です。その品質や安全性には確立された実績があります。
※美容領域の「しわ治療」の用途において
ボツラックス (Botulax®)韓国製のボツリヌス治療製剤
KFDA(韓国食品医薬品安全庁)で承認されており、広く使用されている製剤です。
カウンセリングにて、それぞれの特徴を詳しくご説明し、患者様にとって最適な製剤を一緒に選択していきます。
治療の流れとアフターケア
治療の流れ
- カウンセリング・診察
お悩みや症状を詳しくお伺いし、ボトックス治療が適しているかを診断、治療の目的や効果・リスクを説明いたします。 - 同意書のご記入
内容をご理解・ご納得いただいた上で、ご署名をいただきます。 - 写真撮影
術前のお顔の状態を記録いたします。 - 施術部位の確認・消毒
実際に歯を食いしばっていただき、咬筋の動きや厚みを確認しながら、Dr.が注入部位をマーキングします。 - 注入
施術時間は約5分。極細の針を使用するため痛みはわずかです。 - アフターケアの説明
施術後の注意事項をご説明します。
施術後の注意事項
治療効果を十分に得て、意図しない結果を避けるために、施術後にはいくつかお守りいただきたい点がございます。例えば、施術当日の過ごし方として、シャワーや洗顔は問題ありませんが、長時間の入浴やサウナ、激しい運動、過度な飲酒はお控えください。
- 注入部位を強く揉んだり、マッサージしたりしないでください。
- 注入部位へのお化粧は、施術当日のみお避けください。
副作用と、治療を受けられない方について
主な副作用
ボトックス治療は安全性の高い治療法ですが、以下のような一時的な副作用が現れることがあります。
- 施術後に、注射した箇所に一時的な内出血、赤み、腫れが見られることがありますが、多くは数日で自然に回復します。
- 食事時の違和感、顎のだるさ、軽度の筋力低下を感じることがあります。
- まれに頭痛など
これらの症状の多くは一過性です。
治療を受けられない方
安全のため、以下に該当する方はボトックス治療を受けることができません。
- 妊娠中・授乳中の方、またはその可能性がある方
- 重症筋無力症など、全身性の筋肉の病気(神経筋伝達機構の障害を伴う疾患)をお持ちの方
- これまでにボツリヌストキシン製剤を使用してアレルギー反応を経験された方
その他、基礎疾患をお持ちの方や服用中のお薬がある方は、必ず事前に申告してください。
【重要】治療後の避妊について
ボツリヌストキシン製剤は、胎児への影響が完全には否定できないため、治療を受けられた方は男女ともに一定期間の避妊が必要です。
- 女性の方: 最終投与後、2回目の月経を経るまでは避妊してください。
- 男性の方: 最終投与後、少なくとも3ヶ月間は避妊してください。
まとめ
歯科医院で行うボトックス治療は、つらい歯ぎしりや食いしばり、それに伴う顎の痛みなどのお悩みを、根本原因である「筋肉の過緊張」から緩和する効果的なアプローチです。口腔と顎の構造を熟知した歯科医師が、的確な診断のもとで施術を進めますので、ご安心ください。
長年のお悩みを解消し、快適な毎日を取り戻すために、ぜひ一度当院のカウンセリングへお越しください。
参考論文一覧
- Ågren M, et al. (2023). “Duration of bite force reduction following a single injection of botulinum toxin in the masseter muscle bilaterally: A one-year non-randomized trial.” Journal of Oral Rehabilitation.
- Nishigawa K, et al. (2001). “Quantitative study of bite force during sleep associated bruxism.” Journal of Oral Rehabilitation.
- Ferreira GF, et al. (2024). “Influence of occlusal appliances on the masticatory muscle function in individuals with sleep bruxism: A systematic review and meta-analysis.” European Journal of Oral Sciences.
- De la Torre Canales G, et al. (2024). “Botulinum toxin-A effects on pain, somatosensory and psychosocial features of patients with refractory masticatory myofascial pain: a randomized double-blind clinical trial.” Scientific Reports.
■ ボツリヌストキシン注入治療に関して
【治療内容】
ボツリヌス菌が作る「ボツリヌストキシン」という天然のたんぱく質を、極めて微量、過度に緊張している筋肉(咬筋など)に注入する治療法です。これにより、歯ぎしり・食いしばり、顎関節症、咬筋肥大といった症状の改善が期待できます。結果として、顎の痛みや歯のすり減り、ひび割れ、破折などを予防することに繋がります 。
【標準的な費用(自費)】
ボトックスビスタ®:44,000円(税込)
ボツラックス®:33,000円(税込)
【治療期間及び回数】
効果は数日~数週間で現れ、通常3~6ヶ月程度持続します。時間の経過と共に効果は薄れていくため、注入前の状態に戻りますが、再度注入することで同様の効果が期待できます。また、繰り返し施術を行うことで、効果がより長く続くことが期待できます。
【副作用・リスク】
- 注入部位に内出血、赤み、腫れ、かゆみ、疼痛、発疹などがみられることがありますが、多くは数日のうちに消失します。
- 局所的な筋肉の疲労感、脱力感、食事時の違和感、突っ張り感などがみられることがありますが、これらも一過性で時間と共に回復します。
- ごくまれに(発症頻度0.5%以下)、発熱、吐き気、頭痛などが生じることがあります。
- 過度な注入や短期間での反復治療により、ボツリヌス毒素に対する抗体ができ、効果が薄れる可能性があります。
【医薬品医療機器等法(薬機法)に関する記載事項】
- 薬機法上の承認/認証を得ていない医療機器であること:当院で使用するボツリヌストキシン製剤の一部(ボツラックス®)は、日本国内においては厚生労働省による承認を受けていない未承認医薬品です。
- 入手経路: ボトックスビスタ®:アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックスより、ボツラックス®: 株式会社ビューティーカレンダーを通じて、歯科医師が適正な手続きにより個人輸入しています。
- 同一の性能を有する他の国内承認医薬品等の有無: 日本国内においては、アラガン社の「ボトックスビスタ®」が、眉間や目尻の表情じわの改善目的で厚生労働省の製造販売承認を取得しています。しかし、歯ぎしり・食いしばりの原因となる咬筋への適用など、その他の部位や症状に対する治療に関しては、国内で承認されたボツリヌストキシン製剤はありません(2025年9月時点)。
- 諸外国における安全性等に係る情報: 当院で使用する韓国製のボツリヌストキシン製剤は、韓国の規制機関であるKFDA(韓国食品医薬品安全庁)の承認を受けています。現在まで、重篤な副作用は報告されておりません。
- 医薬品副作用被害救済制度の対象とならないこと:当院で使用する未承認のボツリヌストキシン製剤によって万が一重篤な副作用が発生した場合、国の「医薬品副作用被害救済制度」の対象外となることがあります。
2025年9月7日 (日)
カテゴリー : 治療に関するお悩み